どきどきしながら、スナック菓子の袋を開ける。やった、欲しかった野球選手のカードだ−。子どものころ、皆さんも同じような経験をしたことがあるのではないだろうか。カルビー「プロ野球チップス」が来年、五十歳を迎える。子どもたちに愛され続けたロングセラー商品の魅力と功績を調査した。
■18億枚2万種類
プロ野球チップスは一九七三年七月に誕生した。「七一年に作った『仮面ライダースナック』が、かなり売れまして。同じようにおまけのカードを付ける商品は何かないかということで次に目をつけたのが、プロ野球でした」。カルビー・マーケティング本部の三井剛さん(53)が説明する。
七三年といえば、巨人がセ・リーグ九連覇を達成した年。王貞治選手、長嶋茂雄選手のON人気も手伝い、たちまち、子どもたちの間に広まった。以来、発行されたカードは累計で約十八億枚、二万種類に上る。
二〇〇九年からプロ野球チップスを担当する三井さんは「どの選手をカードにしたら子どもたちが喜ぶのか、最も悩みます」。現在は年に三回、それぞれ百二十〜百四十種類を発売しているが、「鳴り物入りで入団した新外国人選手が、開幕前に帰国してしまうこともあって…」。活躍する選手を予測してカードに載せるのが腕の見せどころだ。
袋の中身がわからないため、都市伝説のような話も生まれる。筆者は子どものころ、なぜか、阪神・掛布雅之選手が五回連続で出た記憶があるが、三井さんに聞くと、「同様に『○○選手ばかり出る』、逆に『○○選手が出ない』という話を耳にするのですが、本当に均等に刷っているんです。不思議ですよね」。
■J人気でピンチ
そんな人気商品が一度だけ、危機に陥ったことがある。一九九五年と九六年の二年間、プロ野球チップスは作られなかった。「原因は九三年に始まったJリーグです。試しに『Jリーグチップス』を作ったら、大ヒットしまして。ところが、ポテトチップスを作る工場の生産ラインの数に限りがあるため、やむを得ずJリーグを優先したそうです」
苦肉の策として、プロ野球カードは関連会社「東京スナック」に移管。ポップコーンなどのおまけとして存続させ、J人気が落ち着いた九七年に復活させた。
■「トレカ」先駆け
プロ野球カードは玩具の中で「トレーディング・カード」に分類される。収集や交換を目的とするカードのことで、略して「トレカ」といわれる。プロ野球、海外サッカーなどのスポーツカードと「ポケットモンスター」「遊戯王」といったゲームカードに大別されるが、このトレカが今、空前のブームになっている。
日本玩具協会の統計によると、二〇二一年度の「カードゲーム・トレーディングカード」の市場規模は、千七百八十二億円。〇一年に現行の方式で集計を始めてから過去最高を記録した。
「日本でこれだけトレカが流行(はや)るようになったのは、間違いなくプロ野球チップスのおかげ」。功績をたたえるのは、国内最大級のトレーディングカードショップ「ミント」渋谷・吉祥寺店の中川良太店長(41)。状態が良く希少価値が高いものだと、十万円で取引されるものもあるそうで「歴史を重ねており、もはや単なるお菓子のおまけではありません」と文化財的価値を強調した。
プロ野球チップスの販売価格は一袋百四円。子どものお小遣いで買える商品が日本文化、経済の一角を担ってきた事実に驚く。三井さんは「価値が高くなるのはありがたいことですが、購買層はあくまで小学生がメイン。これから先もずっと、子どもたちに気軽に買って楽しんでもらえる商品であり続けたいですね」と次の五十年に思いをはせていた。
文・谷野哲郎
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