Search

ポストコロナ社会でスポーツはどうすれば生き残るか 大体大・原田宗彦学長に聞く - ニッカンスポーツ

日刊スポーツ名物編集委員・寺尾博和のインタビュー企画「寺尾が迫る」は、大阪体育大学・原田宗彦学長(68)に聞きました。

テーマは「新型コロナウイルス明けのスポーツ」。スポーツマーケティングのプロは、スポーツの回復基調を認めた上で、スポーツの見方、応援スタイルなどの変化を予見。日本スポーツ界の「国際化」を生き残りのポイントに挙げた。

   ◇   ◇   ◇

寺尾 日本ではサッカーW杯の余韻が残っているようです。新型コロナウイルスの第8波がささやかれる状況で、スタンドはノーマスクで盛り上がりました。

原田学長(以下原田) 今回のW杯を見ても、日本サッカーは世界に近づいています。その一方で、日本人には体格、そして巧みさやずる賢さなど、乗り越えられない壁も存在します。例えばネイマール(ブラジル)がみせるPKのしたたかさなどを見ると、日本人はひたすら真面目だとつくづく思います(笑い)。Jリーグの観客動員もコロナ前は1試合平均2万人前後でしたが、現在は1万5000人程度に戻りつつある。徐々に「日常」に戻ってきたと言えるでしょう。

寺尾 プロ野球も3年ぶりに入場制限を全面解除してシーズンを乗り切った。

原田 私は阪神ファンですが、東京にいる時はTV放映が少ないので寂しかったです。でも今年は甲子園も連日の4万人超えに戻りました。Bリーグもよく見に行きますが、最近のアリーナは満員です。エディオンアリーナ(大阪府立体育会館)などチケット売り切れで、立ち見が出た。Bリーグはエンターテインメントが高度化しているのでチケットが売れる理由がわかります。コロナで抑えられてきたから、ライブ観戦を求める気持ちにつながっているのかもしれません。スポーツに限っては回復基調にあります。

寺尾 完全収束は不透明でも、コロナ前後でスポーツのありさまに変化は感じますか。

原田 スポーツの価値観は1ミリも毀損(きそん)されていない。ただ「見るスポーツ」はライブ観戦だけではなく、自宅のテレビやネットで見るファンも急増するなど多様化してきました。その一方、「するスポーツ」については、コロナの影響もあって、心身とも良好な状態を保ちたいということで健康志向が高まっています。健康作りにおいて、レジリエンス(回復力)を高め、持続的なウェルビーイング(幸福)を感じることが重要です。

寺尾 コロナ禍のスポーツは、東京五輪が1つの指針でした。賛否が渦巻く状況でも「開催すべき派」でしたね。

原田 脈々と続く五輪の歴史の中、東京2020が開催できたのは良かったです。無観客で、バブル方式という具合に残念な部分はありましたが、ともかくバトンをパリ(24年)、ロサンゼルス(28年)につなげることができました。ただホストタウンに名乗りを上げた500近い自治体は海外チームのトレーニングキャンプ(事前合宿)を誘致しましたが、1年延期のあおりを受け、キャンセルや辞退が続出した。そのために住民との交流の機会が失われました。東京2020がこのような状況でしたので、2030年の冬季五輪は札幌でやって欲しいと願っています。今は反対の声も大きいですが、リベンジの機会を狙っている協賛企業も少なからずあると聞いています。

寺尾 スケートボード、スポーツクライミングなど5競技が追加されたのは新たな潮流です。

原田 いわゆるアーバンスポーツと呼ばれるジャンルです。選手は若く、出走直前までスマホでパフォーマンスのイメージを確認し、「行ってきまーす!」とスタートしてそれぞれが仲良く競い合う。負けても悔しがらず、お互いを称賛し合う。体操競技や柔道など、伝統的な競技ではあり得ないです(笑い)。

寺尾 パリ五輪から除外される野球などは消滅の危機ですか。

原田 それはないでしょう。日本では、野球は不動の人気スポーツです。その一方で、五輪種目に加わったアーバンスポーツは「Z世代」「アルファ世代」が中心です。スポーツには世代効果と年齢効果という考え方があります。年齢効果は年をとるごとにするスポーツ種目が変わるという仮説です。若い時はサッカーやるけど、年をとるとゲートボールに転向していくみたいなね。その一方、世代効果はいつまでも同じスポーツをやり続けるという仮説。現状を見る限り、世代効果のほうが正しい。今サッカーをする若い人は、年とってもサッカーをやるでしょう。

寺尾 野球、Jリーグも“コロナショック”で経営的に厳しい。

原田 でもどこもつぶれていませんよね。Jリーグだって、J1から下部組織まで倒産は1件もない。Bリーグもそう。リーグ経営がしっかりしているので、チームは経営的には厳しくとも低いレベルで均衡を保つことが可能です。

寺尾 ではコロナ明けのスポーツ界が存続していくキーは?

原田 1つはさらなる国際化でしょう。例えばコロナ前ですが、東京で巨人戦を観戦する外国人が意外と多かったのです。なにを言いたいかというと、今後インバウンドが復活した時に、日本でスポーツ観戦をしてもらえるような状況をつくりたい。イングランドのプレミアリーグでは外国から年間120万人が観戦に訪れ、英国で活躍する自国のプレーヤーを見に来ています。Jリーグのレベルが上がると、アジアのいい選手がJリーグにきて、それを見にアジアからスポーツツーリストが来る。海外からもファンを呼べるスポーツになって欲しいですね。

寺尾 応援スタイルですが、まだ“声出し”はNGです。

原田 コロナが沈静化してくると“声出し”もOKになるかもしれません。でも野球はこれを機に、鳴り物、音楽がないメジャー流の応援に変わってもいいかもしれません。スポーツの価値観は動かないが、応援スタイル、それに伴う行動は「見るスポーツ」も「するスポーツ」も変わっていくかもしれません。

寺尾 スポーツがコロナ後の社会を明るい方向に導いてほしいです。

原田 スポーツの将来は暗くはない。関西ではオリックスが強くなってきたし、東大阪市を拠点とするサッカーのFC大阪がJ3に参入し、花園をホームとして戦います。さらに25年の大阪・関西万博、27年のワールドマスターズゲームズも控えているので、ビジネスチャンスと言えます。23年以降は、話題性の高いスポーツイベントがスポーツ界をリードしていくのではないでしょうか。今回のサッカーW杯の盛り上がりを見て、この3年間に忘れていた熱いものを思い出しました。スポーツは尊いですね。あらためて気付かされました。

◆原田宗彦(はらだ・むねひこ)1954年(昭29)3月18日、大阪府生まれ。京都教育大卒、筑波大大学院、ペンシルベニア州立大博士課程修了。鹿屋体大助手、フルブライト上級研究員、大体大大学院教授、早大スポーツ科学学術院教授を経て、21年大体大学長に就任。一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構代表理事、日本スポーツマネジメント学会会長、Jリーグ参与、公益財団法人日本バレーボール協会理事、公益社団法人日本トライアスロン連合顧問を務める。30年札幌冬季五輪開催概要計画検討委員会委員長などを歴任。日本のスポーツマーケティングの第一人者で知られる。

Adblock test (Why?)



from "スポーツ" - Google ニュース https://ift.tt/MPgUu4t
via IFTTT

Bagikan Berita Ini

Related Posts :

0 Response to "ポストコロナ社会でスポーツはどうすれば生き残るか 大体大・原田宗彦学長に聞く - ニッカンスポーツ"

Post a Comment

Powered by Blogger.