近年のスポーツ界では多くの場面でアナリティクス(データ分析)が活用されている。夏の高校野球大会の優勝校がデータ分析を活用していたのも記憶に新しい。國學院大學の渡辺啓太准教授は日本におけるスポーツアナリストの先駆者と言われ、大学生の頃から日本女子バレーボールの代表チームにアナリストとして帯同していた。今回は、渡辺准教授にスポーツにアナリティクスを持ち込んだ経緯やその苦労、今後の展望などを聞いた。
〈プロフィール〉
渡辺啓太先生(國學院大學人間開発学部健康体育学科・准教授)
2011年3月 修士(体育学)
2021年4月 國學院大學准教授
浅野中学・高校時代にバレーボール部に所属。専修大学バレーボール部で独学にてアナリスト活動を開始。在学期間中にプレミアリーグでアナリストを務め、大学3年次には全日本女子ナショナルチームのアナリストに抜擢。大学卒業後、 2006年よりナショナルチームの専属アナリストとなり、北京オリンピックを経験する。2010年よりセリエA1のNOVARAにデータバレー留学。引き続き女子ナショナルチームのサポートを行う傍ら筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程前期終了。世界で初めてiPadを用いた情報分析システムを考案・導入し、眞鍋監督のもと世界選手権で32年ぶりの銅メダル、ロンドンオリンピックでの28年ぶりの銅メダルを獲得に貢献。以降も日本バレーボール界の情報戦略の中核を担う存在として活躍する。
現在、一般社団法人日本スポーツアナリスト協会代表理事。公益財団法人日本バレーボール協会バレーボール女子日本代表チーム監督付特命戦略コーディネーター、アスリート委員会主事、情報戦略ユニットメンバー。公益財団法人日本オリンピック委員会選手強化本部中長期戦略プロジェクトメンバー、パリ2024大会対策プロジェクトメンバー(球技系【団体/インドア】兼情報科学関係担当)、JOC Top Sports Database スーパーバイザー、情報・医・科学専門部会 情報・科学サポート部門員。Japan Sports Weekアドバイザリーコミッティー委員。スポーツ庁「新しい生活様式を踏まえた障害者スポーツの在り方等に係る調査」検討委員会委員等。
◆担当授業
データ分析の基礎、スポーツアナリティクス、スポーツ情報処理、 I CTの活用、球技ネット型Ⅰ、専門基礎演習、演習(人間開発学部)、演習・卒業論文(人間開発学部)
「アナリティクス」と「スポーツ」の2本の柱を確立
━まず、スポーツアナリストの役割を教えてください。
チームや選手の目標達成・課題解決のために情報を活用して、意思決定者がよりよい意思決定をするために情報面でサポートするのがスポーツアナリストの役割です。
━なぜ、スポーツにデータ分析を取り入れようと?
高校時代にバレーボールの国際試合を見に行くと、海外のチームがパソコンを持ち込んでいました。90年代後半当時には不思議な光景だったので、詳しく調べてみると、海外ではコンピューターで対戦相手の分析・研究をするのが進んでいて、日本はその分野で遅れていました。自分で試合の記録を付け、試合後に振り返るということを試してみると、データ分析がいかに重要か分かりました。これをきっかけに、私の中で「スポーツ」と「アナリティクス」という2本の柱が確立されました。
━それからスポーツアナリストを目指したのですね。
当時はロールモデルも教材もなくて大変でした。大学でビジネス領域の分析の授業を受ける際には、「企業が利益を上げるためには」という話を「チームが勝利するためには」と置き換えるなどして発想を広げていきました。実践面では、部員に資料のつくり方も意見をもらって改善を重ねました。この時に失敗も含めいろいろな経験ができたことで、アナリティクスのあるべき姿に近づけたと思います。
大学3年生の時からバレーボールの代表チームのサポートを始めた一方、「スポーツでは飯は食えない」と言われて、一般の就職活動もしました。しかし、当時の監督やバレーボール協会の方に「次のオリンピックにはお前の力が必要」と言われ、アナリストの道へ進みました。その際、「チームのオリンピックメダル獲得に貢献する」、「日本におけるアナリストの地位を確立させる」という2つのミッションを課せられました。難しい要求でしたが、すぐにアナリスト育成アカデミーを立ち上げるなどして、徐々に仲間を増やしたり、他競技のアナリストとの交流などを推進したりしました。
アナリストの未来を託される責任感
━バレーボールでのデータ分析の効果は?
分析で相手の弱点を見つけたり、相手の攻撃を予測できたりすれば、優位性を持てます。また、指導者がエビデンスを持って選手に説明するためのデータにもなります。代表戦にもなると、事前に数ヶ月かけて分析をしますが、相手は試合中に変化するので、試合中も分析をしています。すると相手がさらに変化して、それにも対応して…、という駆け引きを常にしているんです。もし、データが間違っているとその先のアウトプットも間違えることになるので、正確なデータ収集は必須です。チームを勝たせたい気持ちが強いほど、アナリストの作業に終わりはありません。
━先駆者としての苦労はありましたか?
日本代表チーム初の専属アナリストとして、自分が価値を発揮できなかったら、日本でのアナリストの必要性が認められなくなってしまうというプレッシャーがありました。当時は、進むべき道がわからず真っ暗なトンネルを必死に自ら爪を立てて掘りながら進んでいる気分でした。ですが、チームがメダルを目指しているのに、アナリストの私が未熟なままではいけないと思い、世界一のアナリストを目指してめげずに努力しました。
選手の汗を無駄にしないための研究
━現在はどういう活動を?
今は國學院大學で教鞭をとり後進を育てたり、研究・開発に時間を注いだりしています。また、バレーボール女子代表チームの戦略コーディネーターとして、チームに帯同して知見の還元やサポートなどを行うこともあります。監督は選手の選考、戦術や戦略の決定など、日々様々な意思決定を行っているので、少しでもその支援ができるよう努めています。
━國學院大學に准教授として就任したきっかけは?
自分の中で「後進を育てたい」という思いが出てきた頃、國學院大學でスポーツアナリティクスという科目が開設されました。國學院大學は教育者を目指す学生も多く、中学・高校でのスポーツアナリティクスの普及にもつながると思い、着任しました。
━大学での授業や研究について教えてください。
授業では、私が実践知として学んだことを形式知にして汎用性をもたせて伝えています。また、試合の映像からデータ収集・分析し、パフォーマンス向上のための改善方法を提案する一連の流れを体験しながら学習してもらうような時間もとり、学生たちがアナリストに興味を持てるよう取り組んでいます。
研究では、バレーボールのゲームの真理や選手の正しい評価法について探求しています。例えば、バレーボールではアタックの決定率という指標がありますが、本当にそれで選手を正しく評価できているのか?という探求です。私は現場で選手が必死に流す汗を見ているので、誤った評価でその汗を無駄にしないためにも、正しい評価法を追及し続けるべきだと考えています。
将来スポーツで求められるのは心技体知
━今後のスポーツアナリストの展望についてお聞かせください。
2 0 2 2年にはスポーツ庁が「第3期スポーツ基本計画」の中で「スポーツ界におけるDX(※)の推進」を掲げ、スポーツ界でのデジタル分野の人材を育てる動きが活発化しています。A Iによる変革も迫り、アナリティクスにA Iが導入されれば多くのデータを収集し、分析結果を素早く導くことができます。そのような状況にアナリストがいかにフィットしていくかが求められるでしょう。
これからのスポーツは、体を動かすだけでなく振り返りや問題発見・課題解決も大切で、頭の訓練をする時間も必要になります。そうすると、「スポーツを学びました」ではなく「スポーツを通して学べた事」が増え、「勝った」「強くなった」の満足感だけでない価値が生まれます。この経験が社会に出た時にさまざまな場面で役に立ちます。心・技・体を鍛える昔ながらの体育・スポーツのあり方を継続しつつ、今後は「知」をプラスした心・技・体・知が求められるでしょう。
※デジタルトランスフォーメーションの略。デジタル技術によって変革すること
(提供:國學院大學)
(企画制作:神奈川新聞社クロスメディア営業局)
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