7月にプラスチック製レジ袋の有料化が小売店に義務付けられて3カ月余り。東京都内の7~9月の万引の摘発件数は前年同期と比べ減少する一方、レジ袋に代わって利用が広がるエコバッグを悪用した万引被害が目立つようになっている。スーパーの経営者や保安員は「手口の幅が広がり、摘発しづらくなっている」と頭を悩ませている。(奥村圭吾)
8月下旬の昼下がり。東京都武蔵村山市内のスーパー店内で、客の70代女性がサケの切り身やハム、ベーコン(計1000円相当)をエコバッグに忍ばせる様子を、保安員の男性が見ていた。女性は他の商品の会計を済ませて店外に出たところで呼び止められ、保安員に現行犯逮捕された。
女性は夫と年金暮らし。万引での摘発は初めてだった。「将来の生活に不安があり、少しでもお金を節約したかった」と動機を話したという。
警視庁によると、レジ袋が有料化された7月以降、万引の摘発件数は7月が890件(前年同期比258件減)、8月が816件(同165件減)、9月が805件(同114件減)と減少が続く。
◆「万引犯にとって商品をうまく隠せるアイテム」
摘発件数が減る中、保安員らはエコバッグを悪用した万引の被害増加の兆しを感じ取っている。
私服保安員協会の担当者は「エコバッグは、数年前に利用が始まってから万引犯にとって商品をうまく隠せるアイテムとなってしまった。7月以降は利用者がさらに増えたので、警戒している」と話す。
万引対策に詳しい保安員の伊東ゆうさん(49)は「常習犯以外に裾野が広がっている」と指摘する。エコバッグをカートのかごやハンドルにかけて万引する手口が目立つが、レジ袋の利用が減ったことを逆手に取り、商品を裸のままや買い物かごに入れて盗む大胆な手口もみられるという。
エコバッグ万引の被害をなくすため、東京都練馬区のスーパーでは、店内のスピーカーやポスターでエコバッグの正しい利用を呼び掛ける自衛策を始めている。同区の別のスーパーの経営者は「お客さんに不快感を与えてはいけないが、怪しい場合は声を掛けないと店を守れない」と苦しい胸の内を明かし
◆消費者と店が新しい買い物様式を
レジ袋の有料化で「エコバッグ万引」への警戒が強まる中、「万引犯に間違えられないか」と不安を感じる買い物客もいる。消費者団体「主婦連合会」(東京)の有田芳子会長は「消費者と小売店の双方が誤解を生まないため、新しい買い物様式を作り上げていくべきだ」と呼び掛ける。
「万引犯と勘違いされた人もいると聞く。自分の身にも起こりうるのではないか…」。練馬区内のスーパーで買い物中の主婦(42)はこう話す。特に買い忘れがあり、エコバッグに商品を入れて店内に戻る時が不安といい、「盗難されるリスクがあっても、自転車のかごに商品を置いていく」と話す。
板橋区のタクシー運転手の男性は「環境には良くないが、会計済みだとアピールするため、今もあえて有料のレジ袋を使っている」と話す。
同連合会は、エコバッグを精算後に荷造り台で広げる▽ファスナーが付いたエコバッグを使う▽折り畳めないものは口をしっかり縛る▽レシートを保管するなど、買い物客に誤解されないための自衛策を取るよう勧める。
一方、店側にはレジ袋を利用しない場合、商品にしっかりシールを貼ることに加え、他店で購入済みの商品を持って来店する客のために、専用ロッカーなどで預かるサービスを推進すべきだとしている。
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