世の中には日ごろから使っているのに、あらためて考えると、意味が分からない言葉がある。野球の遊撃手もそう。なぜ、二塁と三塁の間を守るポジションを「ショート」=短い=と呼ぶのだろうか。少し不思議な名前の由来を探ると、今では忘れられた野球誕生の秘密にたどり着いた。
■公式資料存在せず
ショートの正式名は「ショートストップ」という。だが、なぜ、「短く止まる」と呼ぶのだろう。他の内野は一塁がファースト、二塁がセカンド、三塁がサードと数や順番に関係しているのに、どうして、ショートだけ違うのか−。謎を探るべく、文京区にある野球殿堂博物館に足を運んだ。
日本で最も野球に詳しい場所。すぐに判明すると思ったが、意外にも「名前の由来について記された公式資料が見つかりません」。ならばと、野球の本場、米国の野球殿堂博物館に問い合わせたが、こちらも同様の返答。調査は初手から暗礁に乗り上げた。
こういうときは一から見直した方がいい。日米双方の殿堂博物館から提供されたショートについての資料を読み込んでみた。すると、驚くべき事実が分かった。ショートは最初、内野手ではなく、外野手だったというのだ。
■第四の外野手誕生
米野球歴史研究家・ポール・ディクソン監修の野球辞典にはニューヨークのニッカーボッカー・クラブに所属したダニエル・アダムスの話が掲載されている。初期のボールは今よりも粗悪で軽く、遠くまで投げられなかった。そのため、外野に飛んだ打球を中継する必要があり、アダムスが補助役として第四の外野手を作ったとある。それがショートだった。
ニッカーボッカー・クラブは一八四五年九月に「3アウトで攻守交代」など、現代の野球につながる公式ルールをつくった有名なチームだ。ただし、このころの野球は「二十一点先取した方が勝利」「投手は下手投げで打ちやすく投げる」など、今とは違うところもあった。まだまだ大ざっぱで、チームの人数すら決められていなかった。それ故、ポジションの新設が可能だったようだ。
興味深いのは、ショートが打者によって守備位置を変えたこと。別の研究によると、この時代の内野手はそれぞれベースの上を守っていたが、ショートは右打者のときは二、三塁間、左打者では一、二塁間を守ったという。確率を考えてのことだろう。以後、野球は九人でという流れとなり、改変を重ねながら、広まっていく。
■ボールの品質 向上し
さて、名称の謎に話を戻そう。公式の証拠こそ見つかっていないが、米野球記者アンドリュー・バガリーさん(48)はこう推測する。
「最初のショートは中継役。外野からの返球を『短い距離で止めてプレーした人』だから、ショートストップと呼んだ。そう確信しています。その後、ボールの質が向上し、遠くまで投げられるようになると、今度はゴロを防ぐのに便利な位置だと判断され、外野手から内野手になったのです」
まさか、何の疑問もなく使っている野球用語に、こんな壮大な物語が隠れていたとは−。阪神、ロッテで活躍し、遊撃手として最長の六百六十七試合連続フルイニング出場のプロ野球記録を持つ鳥谷敬さん(41)も「初耳です。でも、ショートにとって中継プレーはものすごく重要。分かる気がします」と驚きながら答えてくれた。
来月にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が行われる。大谷翔平選手や村上宗隆選手の本塁打も楽しみだが、野球の原点に戻って、ショートの中継プレーに注目してみるのも面白い。
<遊撃手> ショートは日本では遊撃手と呼ばれる。訳したのは明治時代の教育者・中馬庚(ちゅうまかのえ)。野球観戦の際、「あちこちを動き回って守備を固める遊軍のようだ」と軍隊になぞらえて和訳したという説が有力だ。中馬はベースボールを「野球」と最初に訳した人物として、野球殿堂入りしている。
文・谷野哲郎
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